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煎茶道のお手前でいつものお茶を心満たす一服に~ 第2回 番茶手前

カテゴリー 学び

お茶は私たちにとって日常的な飲み物です。食後や、ちょっと一服したいとき、あるいはお客様をもてなすときなど、お茶は心を和ませ、くつろぎの時間を豊かにしてくれます。せっかくお茶を飲むのなら、美味しい一杯を淹れたいものですよね。小川流家元総師範の樋口恵楽さんにお話を伺いました。

茶は渇を止むるに非ず、喫するものなり

お煎茶のお稽古をしていると、よく生徒さんたちに尋ねられます。
「先生、お茶の葉の量はこれくらいでいいですか?」
私はいつも「淹れてみたら?」と答えています。というのは、お茶の味は葉の量だけでなく、その日の天気や気温、お湯の温度など、様々な条件によって決まるためです。自分自身で経験を積み重ねることで、適量がわかるようになっていきます。

大きなお茶会があるときは、お茶の葉の量を見極めるために、前日に試してみることもあります。なかなか適量を見い出せなくて、何度もお茶を淹れているうちに、お茶缶を一本使い切ってしまったこともありました。
先生方などは当日部屋に入ってきて、「今日はお茶の葉を少なめに」「今日は少し多めに」とすっと指示を出されることがありますが、そのとおりにすると本当に美味しいお茶が淹れられるのです。これこそ経験の賜物です。

煎茶小川流の流祖・小川何進には、こんな逸話があります。
『一杯のお茶の味が違うことに疑問を感じ、京都のあちこちから水を集めてお茶を淹れ、その味の差から天災を言い当てた。』
何進は「茶は渇を止むるに非ず、喫するものなり」と言っていました。お茶は喉を潤すのではなく、味わうものであるということです。この言葉をよく表した逸話だと思います。
では、いつも美味しいお茶を淹れるにはどうすればよいのか、その方法を学ぶのが煎茶道です。たくさんの手順に戸惑うかもしれませんが、それは装飾的なものではなく、何進が経験や実験を通して生み出したとても合理的な手法なのです。

気軽に楽しめる番茶手前

煎茶道というと堅苦しく感じますが、その中で気軽に楽しめるのが番茶手前です。番茶はくつろぎの場にふさわしいお茶とされており、特に寒い冬には喜ばれます。もちろん暑い夏の最中にも、一杯の熱い番茶は美味しいものです。

番茶手前は、茶葉を焙じて淹れるお手前です。番茶というと新芽ではなく、成長したお茶の葉を指すことが多いですが、小川流では煎茶や茎茶、玉露なども使い、お茶の質にはこだわりません。茶葉は煎茶を淹れるときよりも少し多めに用意し、香りが立つまで焙じます。急須に茶葉を投じ、熱いお湯を入れます。お湯の量は、茶碗にたっぷり注げるくらいにしましょう。これが番茶手前の特徴です。

ご家庭で本格的な番茶を味わってみませんか

お話したように、小川流では番茶として煎茶も玉露も使います。焙じてみると、それぞれに香りも風味も違い、特徴ある味わいが楽しめます。ご家庭に賞味期限の切れてしまったお茶はありませんか。保存が悪くて湿気てしまったお茶はありませんか。そんなお茶があったら捨ててしまわず、一度焙じてみてください。専用の焙じ器などなくても大丈夫です。フライパンや行平鍋などで乾煎りしてみましょう。香りが立ち、茶葉がほんのり色づいてきたら頃合いです。何度も試してみることで、好みもわかってくると思います。「自分にとってちょうどよいところ」を探すこともまた、お茶の楽しみ方のひとつです。

樋口恵楽 ひぐちけいらく
小川流家元総師範。1928年(昭和3)生まれ。宮宗楽氏、六世家元小川後楽氏に師事。越後一宮彌彦神社で毎年行われる灯籠神事献茶祭にてご奉仕。長年NHKカルチャーセンターの講師を務め、現在は自宅にて後進の指導にあたる。

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