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煎茶道のお手前でいつものお茶を心満たす一服に~第1回 文人手前

カテゴリー 学び

みなさんは、最近急須でお茶を淹れていますか?
つい手軽なティーバッグやペットボトルを手に取ってしまいがちですが、本当は気づいているはずです。「急須で淹れたお茶は美味しい」ということに。
美味しいお茶を飲みたくなるお話を、小川流家元総師範の樋口恵楽さんに伺いました。

医学から煎茶道に

江戸時代後期、京都の町医者がひとつの煎茶の手法を確立しました。煎茶小川流の流祖・小川可進です。可進は昨日と今日とではお茶の味が変わることに注目し、お茶本来の味わいを引き出すにはどうすればよいかを追求しました。医者として患者を診るかたわら、文字通り寝ず食わずで研究してたどり着いたのが、四季折々の気候に合わせて火・水・風の条件を最適にするということでした。小川流のお手前は形式美にとどまらず、医者ならではの科学的な観察に基づいた、最も美味しいお茶を淹れるための自然な手順でもあるのです。

可進が医者だからこそ、お手前に特に取り入れたことがあります。衛生面への配慮です。お手前の中に茶巾で茶碗を清拭する手順がありますが、このとき茶巾は常に清潔でなくてはなりません。一碗拭くごとに茶巾を折り返し、新しくきれいな面で茶碗を拭くのです。お菓子を入れた鉢は直に置かず、必ずお盆に載せます。そして手ではなく、箸で取るようにします。

江戸時代には疫病が何度も流行しました。そのたびに多くの人が命を落とし、可進の弟と妹もまた江戸で麻疹が大流行した年に亡くなりました。医者の道を選んだ可進が、人一倍衛生に気を遣ったであろうことは想像に難くありません。

現代人にピッタリな文人手前

小川可進は医者らしく「お茶本来の味わいを引き出すこと」を一途に求めましたが、煎茶道には「気軽に楽しく和やかに、ともにお茶の時間を過ごす」という面もあります。

今回は小川流のお手前の中から、忙しい現代人にピッタリな「文人手前」をご紹介します。

文人手前は机上で行う卓子手前の中のひとつで、1919年(大正8)に考案された新しいお手前です。まず花を一輪飾り香を焚き、静かで穏やかな場を作ります。茶葉を入れた急須(茶瓶)に沸騰したお湯をたっぷり注ぎ、蓋をした上から同じく熱湯をまんべんなく回しかけます。こうすることで茶葉が一気に蒸らされ、そのお茶の味がしっかりと抽出されます。この方法は中国茶の淹れ方を参考にしており、中国文人の名にちなんで東坡手前とも呼ばれます。

続いて横一文字に並べた茶碗に、一息にお茶を注ぎます。お茶が最高の状態である瞬間を逃さないために、ここで時間をかけてはいけません。

通常煎茶は二煎三煎と味わうものですが、これは短い時間で熱々の一煎を楽しむお手前。時間がない現代人にはうってつけです。

文人手前を応用してお茶の本当の味を知ってみませんか

急須に熱湯を注ぐ文人手前は、普段のお茶の時間に活用できます。特別な道具がなくとも、急須と急須が入る深皿があればいつでもどこでもやることができます。急須は小ぶりで、持ち手が注ぎ口の反対側についている後手型だと便利です。

一度この方法で煎茶を淹れてみてください。いつものお茶が、ワンランク上の心満たす一服になるでしょう。最後には白湯を飲むことをおすすめします。甘くまろやかな味にきっと驚きます。そして「気軽に楽しく和やかに、ともにお茶の時間を過ごす」という気持ちを忘れずに。

樋口恵楽 ひぐちけいらく

小川流家元総師範。1928年(昭和3)生まれ。宮宗楽氏、六世家元小川後楽氏に師事。越後一宮彌彦神社で毎年行われる灯籠神事献茶祭にてご奉仕。長年NHKカルチャーセンターの講師を務め、現在は自宅にて後進の指導にあたる。

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