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日本で唯一の産地燕三条地域発。鎚起銅器について〈エッセイ〉

カテゴリー お酒・遊び・夢・旅・仲間・おしゃれ 等学び

「想像力を育む器 」--そんなことを想いながら、鎚起銅器の職人を生業としています。 鎚起銅器の製作工程は、銅板を金鎚で叩き起こし、叩くと硬くなる銅板をまた火にかけて柔らかくし、また叩く。その工程を何回と繰り返すことで器になってゆく手仕事です。私の目の前で多様に変化してゆく銅板の姿はいつも不思議で、金属とゆう硬いものがどうしてこんなに多様に変化するのかと、その姿を楽しんで仕事をする日々。
できることならより多くの方と、この感覚を共有したい。私が製作するのではなく、一般のみなさんとも器製作を共有できる手段はないかと考え、銅鍋をつくる体験会を各地で企画してもらい、伺っています。
この体験をお伝えする旅を半年に1回、軽バンに道具を一式乗せて巡業。遠くは福岡から、山陽、四国、関西。また時にはフランスや台湾などにも。

銅鍋づくり体験とは、なんぞや?

簡単に言えば1日かけて、ご自身の手でMy銅鍋をつくること。
基本は、お昼を挟みながら10時から16時までの6時間。30センチの銅板に木槌と木台を使い形をつくり、金鎚で模様付けをし、最後に私が真鍮の取っ手を付けさせてもらって完成。その夜から銅鍋料理ができる体験会です。
工程はシンプルですが、初めて銅板に触る方がほとんど。道具の使い方からお伝えして、見本はあるものの、ご自身のつくりたい形の模索から、その目標に向かってどう叩けばいいのか。木槌を振るい叩きながら銅板と向き合う。そんな時間です。

6時間、ひたすらに叩く。そんな機会は滅多にない時間ではないでしょうか?
特に、銅鍋づくりの体験は、みんなで金属楽器を叩き続けるようなもの。大きな音の中、誰とも話をせずにみんなが叩く音と共に一心に集中し続ける時間は、銅板と向き合うしかありません。
徐々に変わってゆく姿、行ったり来たりの見えない先、ここが落とし所と納得する瞬間。 私は、製作工程で道具の使い方をお伝えし、時々、どう叩けば参加者さんの向かいたい方に向かうのかを言葉でお伝えするだけ。あとは佳き形になるように願いながら見守っています。
私が手を出さないだけに、参加者さんはああでもないこうでもないと、様々な工夫をされて製作を進めてくれます。そして、ご自身でやりきった最後の表情は、なんとも言えずに清々しく。「この愛しい鍋と一緒に寝たい」と言われる方も。
自分で考えて、自分でつくりあげた道具は、何物にも代え難い大切な道具になる。そのご自身のつくった銅鍋で、家族や友人に料理を振る舞う。その幸せの広がりを想像すると、私も仕事の張り合いをいただけます。

鎚起銅器とは、200年ほど前に燕市に伝わった技術。江戸末期とゆうこともあり、大名お抱えの職人たちが各地に散っていった時期ともなり、仙台藩からこの地に伝わりました。
その当時、弥彦山の海側にある間瀬銅山で良質な銅素材が採れ、その良質な銅と伝わった技術が相まって産地として発展したのが始まりです。当時は「炭火などの小さい火力でも、銅の熱伝導率の良さで料理が早い」と、主に鍋や湯沸がつくられていたとのこと。
今では、産地としては日本で唯一の燕三条地域。私たちのつくっている製品は、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、アメリカ、中国などを中心に、海外の方々にもお茶の文化と共にお使いいただいています。台湾でも、最近ではコーヒーを淹れる文化が根付き、コーヒーポットなどのご注文をいただくことも。

日本でも、製品はその時代時代によって求められる形を変えて。以前は湯沸や急須、茶筒、茶托、建水などを中心にお茶道具がメインでしたが、今では鍋、フライパン、ビールカップ、ワインクーラーなど、現代の生活に寄り添うような道具に変化しています。
時代時代に依って変化する銅器の使い勝手は、人生の変化の中でも感じられるものかもしれません。年齢を重ねたお客様からは、銅器の軽さ、扱い易さに驚いていただくこともあります。 以前は感じられなかったことが感じられる。それも新しい想像力の獲得かもしれません。

私は、この仕事のお陰で沢山の方に出会い、ご縁をいただきました。そのご縁を育ませてもらう中で、自分自身の新しい感性の発見や感動、そして何よりも人のあったかさを感じられることを何よりの幸せと思います。
各地に伺い、その土地ゞの美味しい食事と美味しいお酒をいただき、語り合う。
今年も日本各地に伺えることを楽しみに、またどんな方と出会えるのかと想像を膨らませながら、燕の小さい工房で銅器づくりに励んでいます。

大橋保隆

1975年 新潟県燕市に、大橋正明(当時、玉川堂工場長)の次男として生まれる。
1997年 玉川堂に入社、鍛金を学ぶ。
1999年 長谷川清氏に彫金を学ぶ。
2005年 玉川堂副工場長。
2007年 独立、父と工房を構える。
お客様の依頼にお応えし、オーダー製作で鎚起銅器を製作。

アトリエ連絡先
yasutaka@tsuiki-oohashi.com
090−8610−7017(大橋)
HP https://tsuiki-oohashi.com

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